【産地】長野県

【製作者】横山俊一郎氏他、ご家族での共同制作

【品質】手紬糸 絹100%

【使用染料】山漆 ※茶色がかった墨

【生地幅】約38.5cm(裄丈約71cm 1尺8寸8分まで対応)

【着用時期】9月頃から翌年6月頃（袷・単衣）

長野県松本市 三才山の山間集落に響く機織りの音。横山俊一郎さんとみゆきさんご夫婦そして3人のお嬢様で営まれる小さな工房で生み出される名品「三才山紬」。知る人ぞ知るこの手織物は決してメジャーとは言えないかもしれませんが、手に触れると心が震えるほどの魅力が感じられるのです。手作業で紡ぐ糸の優しさ、草木染が放つ色の揺らぎ、そして手織りの温もり、これらが一体となり完成する絹布が静かに佇む様は着物愛好家の心をつかみ、お洒落着物専門店筋から絶大なる人気を誇ります。ご家族で細々と営む手作り品の為、生産数は極僅かですので多くを目にすることが出来ないレアアイテムだけが放つ特別な布なのです。

シンプルな無地にも関わらず単調さを感じさせない穏やかな表情を漂わせるのは何故なのでしょう。 山漆を用いて染め上げられたまろやかな深みを放つ墨茶色の手紡ぎ糸が生み出すランダムな節が、心安らぐ音色を奏でる旋律のようであり、工藝味溢れる素朴さと風格を感じさせるのです。「究極の無地」それは三才山紬の事なのかもしれません。

静かに佇む優しさと温もり。全てのデザインの中で最もシンプルな無地がこれほどまでに存在感を漂わせる染織の魅力にただ溜息がこぼれるばかりなのです。それは目に見えない空気感のようなものであり、決して言葉で言い表す事は出来ないのです。

三才山紬は長野県松本市の三才山(みさやま)と呼ばれる地域で横山俊一郎氏のお父様英一氏の代から２代に渡って制作されている草木染・手織りの織物です。

信州長野県は織の伝統産地ですが、この三才山紬は地域名こそ付いていますが、その土地で昔から伝承される産地織物ではなく、あくまでも「横山家の紬織物」と表現した方が正しいのかもしれません。

横山氏の父である英一氏が民藝運動の祖「柳宗悦」氏に感銘を受け染織の世界に足を踏み入れられ「三才山紬」が生まれました。

民藝とは民衆の生活の中に密着している道具(工芸品)の中に存在する美であり、そこには決して見栄えのする煌びやかな装飾的な要素があるわけではなく、ただ優れた道具として、また染織物として身近で常に生活の中にあるもの。その中に宿る美しさを芸術ととらえたのが「民藝」であり、それを世に広げる活動が「民藝運動」と呼ばれています。

話は戻しますが、横山氏のこだわりが詰まったこの織物。

地元に自生する草木を使って手紡ぎされた真綿紬糸を染め、手織りでしっかりと丹精込めて織り上げられています。

草木染の色の奥行を言葉で伝えることが出来ませんが、化学染料と明らかに異なるのが「色が生きている」と言うことです。これまた説明するのが難しすぎますが、何色という表現が出来ないと言いましょうか、天然のものに含まれる有機物から発せられる色の干渉がそこにあり、見る角度や光の加減により微妙に色が変化して見える。そんな味わい・奥行が草木染には感じられ まるで色が揺らいでいるかのようなのです。

同じ草木を使っても、全く同じ色が出ないのが草木染であり、時間が経過するにつれ色が微妙に変化していく。それは決して退色という意味ではなく色が生き物のように変化していくのです。色を操るのではなく色が持つ生命力に身を委ねる。そんな贅沢なゆったりとした時間の流れが感じられるのも草木染の魅力の１つなのかもしれません。

お召しになる方の事だけを思い制作される三才山紬。ただひたすら着易さを追求し、しっかりとした手織りへのこだわり、織目がしっかりと詰まった丈夫さとしなやかさを併せ持ちます。

横山氏いわく、「より手のかかったものを作ろうと思えば作れるのだが、そうすれば値段が高くなってしまう」と何かの記事で拝見したことがあるのですが、そこにも「民藝」の精神の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。あくまでも着る物(普段の生活道具)であり芸術品ではないということでしょう。

手紡ぎされた真綿糸のふっくらとした風合いを手織りの技によって損なうことなく織り上げられた布を身にまとえば、温かみと安らぎ与えてくれるに違いありません。この反物を手に取るだけでそう感じるのですから。

ご家族でひっそりと営まれる三才山紬が生み出す至極の優しさ。 ぱっと見のインパクトや息をのむような絣や花織でもないシンプルな無地の絹布。しかし手で触れ身にまとえば 時が経つほどに心にしみわたるような幸福感を与えてくれるに違いありません。

知る人ぞ知るこの織物は誰もが知るメジャーな存在ではありませんが、着物愛好家に多くのファンを持ち、憧れの存在と言っても過言ではありません。

究極の無地と呼ぶに相応しい佇まいは、カジュアルな着こなしを基本としながらもドレスアップシーンに着たくなる品の良さを兼ね備え、その日の気分やシチュエーションに合わせたお洒落をお楽しみください。

スポットガーデン 筑摩和之

※写真と実物ではモニター環境などによって若干色が違って見えることがございます。