昭和50年代には1兆8千億あったと言われる呉服小売市場も今では3千億を切ったところで落ち着いた感じです。実に6分の一の規模にまで小さくなってしまいました。
これは着物愛好家の人数が6分の1になったわけでは有りません。生まれてから亡くなるまでの節目節目に着る儀式としての和服需要が激減した事や、高級品が売れなくなったという2つの要素がとても大きいんです。
宮参りから七五三、十三詣り 成人式に結婚式 そして喪服など。
また、着物業界を支えてこられたお客様の高齢化の波と新たに和服を着られる若い方が少ない事、若い方でも高額である事からアンティークの着物愛好家が多くなる事。(もちろんファッションとしてアンティークの魅力もあります)お母様やお祖母様から譲り受けたもので十分なので新しい着物を誂えなくても事足りるとか。
そこで現在の流通を中心とした呉服事情が今後どうなっていくのか私なりの考えをつぶやいてみます。
呉服に限らず生産からお客様のもとに商品が届くまでには様々な流通経路が存在します。
その一つ一つにマージンが入り製造コストに加算されます。
着物を例にとってみると、製造元(メーカー)→産地専門問屋→前売問屋→小売屋といった流れがあります。産地専門問屋が無い。または通さずに直接前売問屋に流通される場合もあります。
つまり、全国各地のメーカーで生産されたものを問屋が買い取り全国の小売屋に卸していく 問屋は集積地という流れです。
ここで、問屋さんを省き製造元が直接小売屋に商品を流す方が普通に考えると安くなるのでは?と考えますが、何故そうならないのでしょうか?
そこにはこんな理由があります。メーカーというのはお金を払って原料を買い、職人さんに給料を払い商品を製造します。そして問屋さんに買ってもらいお金を貰います。つまり、メーカーは先にお金の支払いが発生してから収入があるという事です。ですから製造期間を考えると収入はかなり遅れて入ってきます。商品は日々生産され出来上がってきますがそれを各小売店に一点一点販売していてはお金の回収が追いつかなくなり資金が回らなくなります。問屋さんであれば出来上がった品をある程度まとまった点数買い取ってくれますが、1店舗の小売屋がそんなに買ってくれる事は有りませんから沢山の小売屋を卸先として集めなければなりません。また、卸をするためには専門の人を雇わなくてはなりませんか
ら経費がかかります。これが小売屋を通さず直接消費者に販売するとなると更に時間と手間と経費がかかると同時に在庫回転率が下がり資金回収が遅れ、在庫リクスも高まります。
それが全てでは有りませんが、そういった理由から問屋という中間業者が存在します。お客様にとってはどうでも良い理由では有りますが、生き残って継続して行くためのものなんです。
でも、その方程式が崩れてきました。問屋さんも経営が厳しくなり在庫を大量に抱えて小売屋に時間をかけて卸していく事が出来なくなってきました。小売屋としては問屋さんに行けば全国各地の色んな商品が沢山揃っているという時代ではなくなり小売屋が直接メーカーから仕入るケースが増えてきました。また、小売屋は他社との差別化をはかる為にオリジナル商品をメーカーに依頼するOEMも行われています。
もう昔ながらの商売という時代ではなくなってきたという事です。
ユ○○ロさんに代表されるように自社製造 自社販売が当たり前になっている洋品の流れが和服業界にもようやく訪れているのかもしれません。
でも、洋服と和服の決定的な違いは、『大量生産→コストを下げて安く売る』または、『少量生産→回転率を上げて安く売る』という手法が難しいという事です。
理由は簡単 購買者が洋服と比べて圧倒的に少ないからです。
少ないお客様に同じものを大量に販売するのは不可能ですし、少ない量でも直ぐに売り切ってしまうのも難しい時代です。
”儲け度がえし”で損をして売ってもそう簡単にさばき切ることはできません。
でも、そういったハードルが現在ではクリアー出来るような状況になってきました。
メーカーや製造者自身が消費者に直接アプローチ出来るツールが浸透してきたからです。
インターネットの普及率が格段に上がり誰でも世界中から商品を探す事ができ、生産者は世界中に商品を発信する事が出来るようになりました。
加えてFacebookやツィッター、インスタグラム、ブログなどのSNSを使って簡単に生産者と購買者が直接コミュニケーションをとったり宣伝したり出来ます。
また更に、ミンネやメルカリ ベイスなど通販サイトを手軽に誰でも運営する事さえ可能になりました。
そうなると、ちょっとしたノウハウさえあれば、産地→消費者へ直接販売出来るのです。
そういった流れは既にはじまっており、お互いの信頼関係さえあれば1番シンプルな流通経路として成立します。
また、消費者にとっては製造者が直接販売している安心感がありますね。
そう考えると、この先 消費者の趣味趣向が多様化し多品種小ロット(より多くの種類の商品を少しの量ずつ生産する)が進んでいくのではないでしょうか。
そうなれば価格は今以上に下がらないまでも値上がりも抑えられるかもしれません。
生産者は今の流通価格で消費者に直接売る事が出来れば販売経費や人件費を差し引いても今以上に利益を確保出来るかもしれません。
究極的には問屋不要。いえ、ひょっとしたら小売店不要な時代が来るのではとも思えてきます。
江戸時代に士農工商とい身分制度がありましたが、”士”は別として”農工”といった物を産み出す事こそが力なのでしょう。そして、目の前にあるものだけを販売する”商”だけを生業にしている問屋、小売店は存在意義が薄れてきた事は間違いありません。
着物屋に未来はあるの?
やり方次第で着物に未来は必ずあります。でも着物屋の未来は…
ちょっと飛躍した考え方かもしれませんが皆さんはどう思いますか?
スポットガーデン 筑摩和之