価格の違いはどこからくる?

2019/10/05


スポットガーデン 筑摩和之です。

今回は、メーカー卸価格について呟きます。

呉服の価格の幅は本当に広いです。

一見同じような品に見えても大きな価格差のあるものも。

例えば、当店取り扱いの織物で、三才山紬(みさやま 長野県)と郡上紬(ぐじょう 岐阜県)があります。
どちらも”草木染、手織り”の織物でとっても上質なお品です
※郡上紬は絣の技術も使われています。

当店価格は、三才山紬..33万 郡上紬..85万

その差52万(約2.5倍)・・ぶっちゃけた話をすると、この2点を同じ利益率で価格設定すると郡上紬は130万になってしまうのです。三才山紬との価格差・・97万(実に4倍)、一般的な着物屋なら130万でも安いくらいです。展示会なら300万でも驚きませんが、ネット通販をしている以上さすがに130万では厳しいので85万に設定していますので殆ど利益はありません(^-^;
こんな高額品はそうそう売れるものではありませんので売れたら事故と考えてます(^-^;(でも郡上紬は本当に素晴らしいお品なんですよ☆)
郡上紬はこちら>>

しかし正直申し上げて、この2点の価格差ほどの違いを上手くご説明することが出来ません。
それぞれの特徴は説明できても、両者を比較して「どこがどれくらい優れているのか。それを価格に換算すると幾らなのか」を説明できる人はいないでしょう。材料費や、水道光熱費は金額で比較できますが、その商品の風合いや、見た目の美しさなどは客観的に価格に換算することには無理があります。

われわれ小売屋は仕入原価があっての売価です。三才山紬と郡上紬、仕入原価が4倍ほど違います。
材料費×出来上がるまでの時間が4倍違えば当然価格も4倍違います。
出来上がるまでの時間をお金に換算することが生産者さんの儲け(収入)になりますね。その金額に見合う品かどうかが重要になります。

1人で1か月かかって作り上げた品の原価は、材料費+光熱費や工房家賃など+1人分の1か月の収入になります。1点1点人の手で作られる工芸品は生産者さんの人件費が仕入原価に大きくかかわってくることがわかります。(数が出来ない分1点当たりの人件費割合が大きくなるという事です。1ヶ月に50万の利益が必要だとして月産50点なら商品1点あたり1万円 月に1点しか作れないなら50万という具合。)

別の産地の話になりますが、沖縄の紅型染。
殆どの職人さんは自宅で細々と製作にあたっておられます。1人の作家さんが染められる六通帯で平均月2~3本くらいです。その3本分が1か月分の収入になります。その収入からは染料代や蒸し代や工房を借りている場合は家賃などが引かれますし、個人事業主ですから税金や健康保険、国民年金をそこから支払わなければなりません。(サラリーマンは給料から天引きされていますが。)手元に残るのはわずかです。

また、先日お話を伺った越後上布の織元さんよると、越後上布の織子さんはそれだけで生活出来るほどの工賃は貰えないそうです。国の重要無形文化財にも関わらずです。ですから、職人になりたいと訪ねてこられる方には未婚の場合は実家、既婚者の場合は旦那さんの職業を聞くのだそうです。実家やご主人にベースとなる収入源がある場合は問題ないのですが、越後上布の織子としての仕事で生活を支えなければならない人には「この仕事では生活できませんよ。」と正直に伝えるのだそうです。越後上布は国の重要無形文化財ですので、後継者人材育成のために国から補助金が出ます。職人として修行中は給料として一定額がその補助金から支払われますが、いざ織子として独立するとその補助金は貰えず、自分が織り上げた分の工賃だけの収入となり修行中より収入が下がるのだそうです。熟練して慣れてくるとスピードも上がり収入も増えては行きますがそれで生業にできるほどではないのです。

着物は高額品で消費者の方が高嶺の花だと手が出ないほどの品でも職人さんは生活するのが精いっぱいであったり、それだけでは生活出来ないほどの収入しかないのが現実です。

商品の小売価格は仕入原価によって決まりますが、産地や作家さんによって同じように見えるものでも仕入原価は違うのです。それは産地メーカーや産地卸問屋、また個人作家さんならそのご本人が決められますので基準が統一されているわけではありません。
その点では小売屋によって同じ商品の値段に差があるのと同じです。
A産地とB産地でA産地の品の方が高いとしても商品そのものがB産地のものよりいい商品とは限りません。A産地の方が利益幅が大きいかもしれませんし、必要経費が違うのかもしれません。ローンのない持ち家が工房なら家賃はいりませんし、従業員を雇っていなければ人件費もかからず少ない利益で生活できるのであれば卸価格もその分安くなります。

大量生産・大量消費ではない呉服、特に手作業による仕事が多い逸品と言われる品は、製作者さん達が生活するうえで必要な収入によって、我々の仕入原価が大きく変わってくるんです。

勿論、高価な材料を使えばその分原価は上がりますが、それ以上に完成するまでの時間(手間暇)が掛かればかかるほど当然のごとく高額になります。そのお値段がお客様が納得して購入できる金額であれば売れるんですね。

もう少しで終わりますのであとちょっとお付き合いください。。

このつぶやきを書いている途中に思い出しましたが、三才山紬の製作者である横山俊一郎氏がこんなことをおっしゃっています。

「私の作るものは、芸術作品ではありません。お客様に満足していただける物作りをしています。」「もっと手の込んだものを作ろうと思えば作れます。でもそうすると価格がものすごく高くなってしまう。そうするとお客様には買ってもらえません。」
うーん。。深い言葉とは思いませんが?

作家さんの中には、少しでも芸術性の高い手の込んだものを作ろうという方もいらっしゃいます。また中にはそれで儲けようという商売人の方もおられます。
でも、横山さんはただお召しになる方の事だけを思い物作りをされているということが良くわかります。
職人さんはまじめで実直な方が多く、商売下手な人が多いと言われます。そしてそれを良い事に便利使いするようなメーカーや問屋、小売屋がいる事も確かです。

それだけに、最終的に販売する小売屋が襟を正して感謝をもって商品と接していかなくてはならないのではないでしょうか。

最後は本題とはズレズレになってしまいましたが【価格の違いはどこからくる?】というつぶやきでした。

今日はここまで。

スポットガーデン 筑摩和之