スポットガーデン 筑摩和之です。
越後上布の織元さんから先日伺ったお話をご紹介します。
越後上布とは、国の重要無形文化財にも指定されている苧麻を原料とした夏の手織物です。
重要無形文化財の指定要件は以下の5つ
1、手績みの苧麻100%であること。
2、絣は「手括り」であること。
3、「いざり機」で製織すること。
4、「しぼとり」をする場合は、湯もみ・足踏みによること。
5、「さらし」は雪ざらしによること。
以上の要件を満たして重要無形文化財指定の技術に指定されます。※出来上がった織物自体が文化財ではなく、その技術が文化財である為「無形文化財」と言います。
この中で今回お話するのは「機織り」についてです。といっても技法ではなく、機織りに従事されている職人さんの収入に関してのつぶやきです。
重要無形文化財指定の技術で生産されている着尺の年間生産量は僅か30数点しかありません。それを聞いただけでお値段が200万以上するのもうなずけます。(販売先によっては500万以上のところもあるでしょうが)
織工さんの数も年々減ってきているようですが、それでも機織りの仕事がしたいと織元さんを訪れて来られる方もおられます。織元さんも職人が必要ですから大歓迎ですし、重要無形文化財に指定されている為、国から後継者育成の為の補助金も出ています。※この補助金は見習い期間の職人さんの毎月の給料として支払われます。
技術が将来途絶えてしまわないように後継者育成は本当に切実な問題となっています。
でも、ここで問題が。。
織工に志願されてこられる方は女性が多いのですが、面接の際に織元さんはこんな質問をされるそうです。
独身の方なら実家にお住まいなのか、家庭の収入源は他にもあるのか、既婚者の方にはご主人の仕事はなんなのか。
何故そんな質問をされるのでしょうか。
勘の良い方ならお判りでしょう。
機織りの収入だけでは生活できないからなんです。
ですから自分が一家の大黒柱として収入を得なければならない方や、独身者で一人暮らしの場合などには率直に「生活できるだけの収入は有りませんよ」と伝えるそうです。
数百万もするような反物を織っているにもかかわらずです。着尺になると織り上げるまでに数か月かかりますからその間の収入は有りません。つまり織工賃は前払いではなく出来上がって納品して初めて貰えるのです。職人さんは織元さんの社員ではなく個人事業主ですので毎月のお給料はいただけないんですね。見習の間は補助金からお給料が出るのですが、独立したての頃は収入が減るのだとか。
数百万もする反物には苧麻を手績みして糸を作る作業や織上がってからの雪ざらしなど別の工程もありますので織工賃だけが製造原価ではありません。ゆえにそれぞれの工程に携わる職人さんの工賃は本当に僅かなのです。
一番利幅をとっているのは小売店ですが、小売の場合も人件費や店舗家賃、販売促進費などの諸経費が掛かるため最終利益はさほどでもありません。
また、高額ですので直ぐに消費者に売れるものでもありませんのでしっかりと利益をとらなくてはならないのも現実です。
このとき織職人さんにも話を伺ったのですが、着尺を織っているだけでは本当に月々の収入が入ってこない為、八寸名古屋帯を織る事で凌いでいるということです。
八寸名古屋帯の場合は、糸が太く早く製織出来るというのと糸が切れにくい為効率よく織り進める事ができるのだそうです。
着尺の糸は細い為、経糸が切れやすくその都度糸を継ぐのですが一日の半分の時間を糸継ぎにとられることもあるのだとか。。
確かに越後上布は高額です、それでも生計を立てる収入を得る事が出来ないという現実になんとも言いようのないやりきれなさを覚えてしまいました。好きでなければ絶対に出来ない仕事なんですね、本当に頭が下がります。
良いものが欲しいけど高くて買えない、、それでも職人さんの収入は僅か、、この業界この先どうなるのでしょうか。ちょっと考えさせられるつぶやきでした。
今日はここまで。
スポットガーデン 筑摩和之
※「いざり機」ではなく「高機」で製織されています。
職人さんの想いが詰まった名品をぜひご覧ください。