綺麗なシルバーグレーの髪に眼鏡をかけ きちんとした身なりがとても上品で可愛らしい雰囲気を漂わせていた村江さん 本品を迎え入れるにあたり 初めてお会いした時の印象は 真面目で優しい聖職者みたい。商品の説明をしてくださる口調も丁寧に私と同じ目線に立ち静かに微笑まれていたのがとても心地良く この織物のように純粋さと透明感を感じたのです。
村江さんの展示会に私が訪れた時は帯と着物が各々数点づつ展示されていました。着物は手が届かないので帯の中から目に付くものはないかと眺めていましたが、どれも目につく。。全部欲しい。。と考えながらも悩んでいると村江さんが来られ商品説明をして頂きました。村江さんのにこやかな表情や優しい声を聞きながら作品を眺めているとふと目に留まったのが本品でした。
人の良さがにじみ出ているような純粋な可愛らしさの中にスッーと1本筋が通ったような清らかさ。私が抱いた村江さんに対する印象とリンクするかのような透明感と清々しさをこの織物から感じたのです。
清潔感あふれるアイボリーの地色に洗練された雰囲気を漂わせるグレーの絣横段 そして優しさを連想させるグリーン格子 また、静けさの中に秘められた情熱のように上下に伸びる絣足(グレー部分の上下のかすれ)
「粋」一瞬そう感じたのですが じっと見つめていると優しさや柔らかさといった和みがそこにあるのです。
何故だろう?
それは絶妙な色彩の濃度が放つ自然さゆえなのかもしれません。これ以上濃くても これ以上薄くても感じる事が出来ない“ちょうど良さ”がなんとも調和された中立性とでも言いましょうか。圧倒されるわけでもなく、また吸い込まれるような感覚でもなく ただ静かに穏やかに眺めていられる居心地の良さがあるのです。
失礼ながら御歳80歳を超えるとは思えない色彩感覚
度々感じる事ですが作家さんの作品を見て作者の年齢を予測するのは不可能だという事。時代の流れとともに自らの感性を磨き上げ 常に我々の一歩先を行く物作りをされています。終わり無き探求心を持ちながら生ある限り立ち止まらずに作り続ける精神とでも言いましょうか。それこそが何かを生み出す根本であると思い知らされるのです。
年齢を重ねてなお 重ねるが故の変化が 積み重ねられた人生経験というバックグラウンドにより 作品に重みや深みを宿らせているのでしょうか。
矢車で銀鼠色に染められた絣の上下に伸びる絣足(かすれのような部分)が工芸品らしさを感じさせると同時にあふれ出る光のエネルギーのようなものを連想させます。
国産絹 ぐんま200
本品の原材料には群馬県碓氷製糸工場で生産されている「ぐんま200」の国産絹が用いられています。
海外産に依存している絹において 品質管理が行き届いた国産絹は日本での流通量の1%にも満たないといわれていますが、その糸が放つ光沢としなやかな糸質は 素晴らしい染織技術の美しさを更に増幅させています。
草木染めの揺らぎ
染色は糸を渋木でアイボリーに染めた後に矢車によって灰色に絣染めされています。またグリーンの格子は「きはだ」で黄色に染めた後に化学染料のブルーを重ね染めする事で緑色に染められています。
草木染がもつ曖昧な揺らぎが優しさや柔らかさといった魅力を放ちます。化学染料のように草木染では思いのままの色が100%出せるわけではありません。しかし浸け込み時間の調整や媒染の際のペーハー値を計算しながら糸染めされ思いに近い色に染められます。しかしその時の条件によって全く同じ色を再現することが出来ない事が、生きている草木染の魅力であり 人はそれを深みや趣きと表現するしか術がないのです。
手織りの安らぎ
上質な絹糸を草木染めした後に手織りによって製織されています。
手織りの良さとは一体何なのでしょうか?
機械織のほうが均質で速く織上がりますが手織りでなければ味わうことが出来ない安心感が生まれるからなのです。糸の声に耳を傾けながら トン トトン いたわるように緯糸を打ち込み織り進めることにより しなやかで適度な張りをが生まれます。
しかし一本の帯を均質に仕上げる為には確かな技術が必要とされることは言うまでもありません。
浮織 宝石のような煌めき
グリーン格子の交差点には浮織の技法で立体的な四角形の柄が織り出されており浮いた糸が艶やかな光沢を放ちます。
平坦な平織の中にエメラルドのような煌めきと可愛らしさが豊かな表情を見せてくれています。
浮織・・数法の糸を覆うように交差する糸で包み糸を浮かせる技法です。
本品は5本の縦糸を緯糸で被せて浮かされています。
浮織は綾織の組織では用いる事は出来ません。村江さんの作品は綾織のものも多いのですが平織だからこそこの浮織を施すことが可能となり平面の中に浮き出る立体感と共に糸と糸との接地面がない浮き糸は艶やかな光沢が出ますのでスキっとしたフラットな表面に浮き糸が宝石のように映えるのです。
織りの中にエメラルドのように輝く浮き織りが煌びやかで 可愛さをもかもし出します。
細手の糸を持ちいて製織された本品はシュッとした手触りでスキッとした非常に軽い織物に仕上がっています。
松尾鏡子 略歴
1937年 東京都文京区に生まれる
1957年 山脇学園短期大学卒
1975年 清野新之助氏に毛織を学んが後に紬織を独習
1975年~約20年に渡り国展に連続出品(1984年を除く)
1979年 日本民藝館展入選 以後毎年入選
柳悦孝氏 柳悦博氏の指導を受ける
1983年 国展入選
1985年 日本工芸会正会員 鳥巣水子氏に花織を学ぶ
1990年 92年 横浜シルク博物館奨励賞受賞
1996年 国画会会友に推挙される
2000年 国画会準会員に推挙される
2008年 国画会会員に推挙される
毎年国展に出品
お仕立てをご依頼の際には垂れ先を格子柄にするかグレーの縞にされるかをオプション選択からご指定下さい。
※ご指定が無い場合は格子柄(写真左)にさせて頂きます。
お太鼓の柄はイメージですので調節によって出方は多少異なります。
長きに渡り国展に出品し続け染織界をリードする村江菊絵さんが生み出す至極の織物がスポットガーデン初登場です。着姿を優しくお洒落に引き立ててくれますのでお目に留まりましたら是非お手元にお迎え頂きましたら幸いです。
スポットガーデン 筑摩和之
※写真と実物とはモニターや画像処理の関係上、若干異なる場合がございますので予めご理解ください。