【製作者】築城則子
【品質】綿:100%(スーピマ綿)
【染色】草木染
【製織】手織り
【長さ】約490cm
【着用時期】袷:10月頃~翌年5月頃 単衣:9月~10月頃・5月頃~6月
決して交わることのない直線 どこまでも平行線をたどる縞模様。その単純ともいえる模様に無限の広がりが感じられるのは錯覚ではないのかもしれません。
作品名「曙光(しょこう)」
「春はあけぼの、やうやうしろくなりゆく山際 少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる。」
かの有名な清少納言 枕草子の一文を思い起こさせるような作品名「曙光」
夜明けとともに刻一刻と変化する空の色を優しくも力強い色彩で表現されています。
この幻想的な美しさを漂わせるカラーグラデーションは様々な草木染料で染色された木綿糸を経糸に配する事で生み出されているのです。
漆黒の空がじんわりと青白くなり徐々に熱を帯びるかのように赤から黄色へと変化する曙の空。そんな情景を草木染という自然の恵みによって得られた色で見事にあらわされています。日が昇る直前の徐々に明るくなるさまから自然のエネルギーを感じるように、本作品を眺めていると、曙光という名が示す通り新たな未来への希望が感じられるのです。
本作品「曙光(しょこう)」には実に多くの種類の草木染料が用いられています。
地色の黒は久留米絣の名門「藍森山」謹製の藍を用いた藍染めの上から青味を消す為にザクロ染めが施され、両サイドから左右対象で内側に向かってカラーグラデーション状の縞模様になっています。
一色ずつご説明しますと、「藍染による藍色濃淡」「藍×山桃でグリーン濃淡」「紫根」「ビワ染めで赤みのオレンジ濃淡」「桜染めによるピンク(肌色)濃淡」「樫染の白茶グレー」「藍×ウコンによる黄緑」「かりろくの実でレモンイエロー」に、「玉ねぎ染め、槐(えんじゅ)、キンモクセイの白茶からグレー濃淡」そして緯糸には樫を鉄媒染することにより黒に近いチャコールグレーの糸がうちこまれています。
これ程までに多種多様な草木染料を用いているお品を見るのは初めてなのですが、絶妙な線の幅や色の配列、また一本の縞の中も色に濃淡が付けられている為、隣り合う色の邪魔をせず、それぞれの色が主張しているにもかかわらず見事に調和しているのは流石としか言いようが有りません。
築城氏が持つ類まれなる高度な技術に加え、抜きんでた作家としてのセンスが合ってこそ成しえる事が可能となるのです。
一本の縞の中も濃淡が付けられています。
築城則子氏によって復刻された「小倉織」唯一無二 木綿の手織物。
洗練された光沢を放つ小倉織。江戸時代 豊前小倉藩(現 福岡県北九州市)で生産され盛隆を極めた木綿織物は丈夫で破れにくく、上質な生綿を用いる事で美しい光沢を放つことから武士の裃として人気を博していました。また、武士だけでなく庶民の間においても実用品として大変重宝されていました。しかし時代の流れによって昭和初期にはその姿を消してしまったのです。その小倉織を1984年に復刻させたのが本品の製作者である築城則子さんであり、現在においても小倉織の第一人者としてご活躍され多くの後継者を育てておられます。
経糸に2200本以上ものスーピマ綿を用い非常に密度が高く、丈夫でしなやかな小倉織。本品を仕入れるにあたり、”使用するにつれて綿特有の毛羽立ちが起きないのか”という疑問があり失礼ながら築城さんに尋ねたところ、糸の段階でバーナーの火にくぐらせる事で細かな綿の毛羽を取り除いている為そういった心配は殆どないとの事でした。事実、築城さんご自身が長く使われている帯を締めておられたので間近で見させていただきましたが非常に綺麗な状態でした。上質なスーピマ綿を経糸に2200本以上用いた密度の高さゆえ、使い込むほど ”なめされた皮” のようにしなやかな風合いになるのだそうです。
この布に触れると表面にポコポコした手触りが感じられます。これは、細縞の部分の織りが縦浮き織りになっているのが理由です。経糸を浮かせるように数本の緯糸を覆うように製織されている為、経糸がポコポコと浮き出ているのです。フラットな平織の中に非常に細かな浮織の変化が見た目においても生地感においても変化を生み出し、カラーグラデーションと相まって豊かな表情を漂わせるとともにボリューム感のある織物に仕上がります。
築城則子プロフィール(遊生染織工房様ホームページより抜粋)