【長さ】約500cm
※仕立て上がり370cmにさせて頂きます。ご希望の長さがございましたらご注文手続きの際にフリー記入欄からお知らせください。最大約380cmまで可能。
渋く輝く草木染の揺らぎ色。生絹のシャリっとしてザラつきのある手触りが趣き深く工芸味溢れる風格を漂わせます。
染織作家 上原美智子さんが生み出す至極の絹布。若き日の葛藤を経て 湧き出る情熱をロートン織という地柄に込められた作品です。
どこまでも交わることのない縞模様に上原さんのブレない信念を感じさせ、星が瞬いているかのようなロートン織の浮織模様が、挑戦という希望の光の様にも見えるのです。
純国産春繭 座繰糸が放つ底光り
琉球藍とインド藍、月桃で染め上げられた絹糸を完全に精練しないことによりシャリっとしてざらつきの有る独特の風合いが残った糸に仕上げられています。糸にとことん拘り 純国産の春繭から上州座繰機で引かれた糸が用いられています。
以前 上原さんにお会いした際にお話を伺ったときに次のようにおっしゃいました。
「春繭は秋繭に比べやはり上質です。そして上州座繰機で引かれた糸は何て言ったらいいのか・・そう 底光りするんですよ」
底光り・・絹が本来もつ奥底から湧き立つような美しさとでも言いましょうか 独特の表現方法ですので完全に理解することは出来ませんが そういわれて眺めると確かにその美しさを感じるのは気のせいではないのでしょう。何より絹をこよなく愛する上原さんが感じられるのですから。上原さんは本当に無邪気で嬉しそうな笑顔でそう話されるのです。失礼かもしれませんが少女のような純真さと糸をまるで自分の子供であるかのような ひょっとすると分身とさえ思っておられるのかもしれません。
織り目に若干の隙間がある製織方法と生絹のシャリとした手触りとが相まって、単衣から夏のシーズンに、また透け感は抑えられていますので袷の季節まで一年を通じてオールシーズンお楽しみください。
※季節を限定することなく年間通じてお使いいただくことを前提として製作されています。
若干透け感がありますが、帯芯を入れて仕立てると透け感はさほど目立たなくなりますので袷の着物と組み合わせても違和感なくお楽しみいただけます。
生絹(なまぎぬ/すずし)
本品はシャリっとしてざらつきのある肌触りですが それは絹糸を不完全に精練した生絹(なまきぬ)を用いている為です。
精練する前の絹糸はとても硬いものです。絹はフィブロインという物質にセリシンというタンパク質の一種でコーティングされています。繭の状態で紫外線などからお蚕さんの身を守るためです。このセリシンを精練と呼ばれる工程により落とすことで絹が持つしなやかなドレープ性と煌びやかな光沢が現れます。
その精練を不完全に処理することでタンパク質が残りこのシャリっとして少しざらつきのある味わい深い織物に仕上がるのです。
そしてタンパク質の残し具合は上原さんの長年の経験によるものでそこにも強い拘りを持たれています。一般的には化学薬品によって精練されるのですが 上原さんは親しい陶芸家の方から陶器を焼き上げる際に残った木灰を譲り受け 水の中で掻き混ぜその上澄みを使って精練されます。今までの経験からどれくらいが丁度いいのかpH(ペーハー)の濃度を測りそれを用いられるのです。絹を愛する上原さんだからこそ天然のものに拘り糸を労わることによって絹が持つ潜在能力を最大限引き出されているのです。
手間を惜しまず 美しさを追求する それが上原さんの「100年後の人々に感動してもらえる織物を作りたい」という情熱であり譲れないプライドなのです。
私の前で見せてくれた少女のような笑顔とキラキラと光る眼差しとは裏腹に物作りへの執念ともいえる強い信念を感じさせるのです。
糸染めされる染料は沖縄の自宅の庭などで採取される天然の草木が用いられます。本品は琉球藍とインド藍、月桃が使われています。
藍色ではないのになぜ原料が藍なの?そう思いませんか?
以前に上原さんにお会いした際、そのことについて尋ねたら以下のように答えられました。
藍は発酵建てした本藍を使わず 藍の生葉で染められています。発酵建ての藍だと藍色にしか染まりませんが生葉だといろんな色に染められます。
「赤紫もグレーも全て藍染なんですよ。それに配合は一切せずに藍単独で使っているんです」
藍染は藍色の濃淡では?と思いましたが上原さんは続けて
「発酵建てした本藍は使いません 藍の生葉を使って染めるんです 発酵建ての藍だと藍色にしか染まりませんが生葉だといろんな色に染められるんです。グレーなんかはとっても綺麗な色に染まります。」
藍染=藍色のみと単純に考えてしまいますが、生葉を原料とすることで他の草木を一切混ぜ合わさなくてこんな色が表現できるとは驚きです。グレーであったり、赤紫や紫、グリーン系など様々な色に染まるのです。
草木染の魅力
草木染料で染色された糸が放つ色の美しさは何とも言えない趣きとともに目に優しく映ります。深みや味わいといった曖昧な表現でしか現わすことが出来ないのが草木染であり、目に映る色の奥に識別が出来ない別の色が重なっているとでも言いましょうか。何度も何度も草木染料に浸け込み重ね染めするがゆえに生まれる曖昧な揺らぎといっていいのかもしれません。
その魅力を的確に形容する言葉が存在しない為、私たちは「深み」や「味わい」と表現するほかないのです。
手織りの魅力
「とんとん♪ とんととん♪」ただひたすら機に向かい緯糸を打ち込んでいく。布の声を聞きながら糸を労わるように、しかし力強く織り進める手織りの作業は、常に心を乱す事が許されない正確さが求められます。それは自分自身と向かい合い我を見つめ直すかのような作業であり、集中力と根気強さを必要とします。高度な技術と人の感度によって、糸の状態や湿度などを見極めて打ち込み具合を加減する。機械織りでは感じられない優しさは人の手がもたらす温もりであり、体に沿う締め心地の良さが手織り最大の魅力なのです。
ロートン織
地組織を構成する経糸の一部を緯糸に覆い被せるように浮かせて製織し、表面に立体的な地模様を表す技法。
浮き糸が豊かな表情を漂わせるとともに、光が当たると絹糸が本来持っている艶やかな光沢を放ちます。
かつて琉球王朝の時代には、身分の高い者だけが身に着ける事を許された高貴な織技法です。
下の画像を見ると、ロートン織で製織されたストライプとストライプの間の平織り部分の緯糸が曲線状になっているのがお分かりいただけると思います。糸の密度に違いにより詰まった部分と緩んだ部分が出来る事で眼鏡状の曲線が現れ、変化のある豊かな表情を感じさせるのです。
5本の緯糸を経糸で覆い被せて挟み込むように製織し、立体的な浮織模様が表現されています。
この浮き糸に光が当たると艶やかに輝き、渋く深みのある草木染の色彩の中に上品で控えめな華やかさを添えてくれます。
織物との出会い
上原美智子さんが生まれ育った沖縄の歴史と現実 自分自身の生い立ち それらが複雑に絡み合って自分を見失いそうになった時・・・自分を見つける為に実体のあるリアリティーを求めた先に有ったものが織物 それが上原さんが織物に携わることになる入り口だったと語っておられます。第二次大戦を身をもって体験され片足を失った母親から幾度となく聞かされた事からまるで自分自身が体験したようにリアルに映像として刻まれた沖縄の悲しい歴史 東京での短大時代に沖縄へのその思いから学生運動や沖縄本土復帰運動などにも顔を出された中 アジテーション(扇動)という実体のない言葉だけの薄っぺらさに嫌気がさし 自分がやりたいことが見つからず一体何が出来るのだろういうコンプレックスが絡み合い 実体のあるものを生み出す事へその意味を求められた先に出会ったものが織物だったのです。
上原美智子
1949年(昭和24年)沖縄県那覇市に生まれる 高校卒業後上京し大学卒業後1971年(昭和46年)民芸運動の父「柳宗悦」氏の甥にあたる「柳悦博」氏に師事し染織を学ぶ。柳氏は多くの弟子を取らず順番待ちの状態だったのですが 上原さんが沖縄出身だと知り運よく弟子に迎え入れられたのだそうです。柳宗悦氏が沖縄の染織に感動し沖縄の工芸品を広く世に知れ渡らせることによって沖縄処分以降衰退していった伝統工芸が復活したという歴史があったからこそ悦博氏が上原さんを弟子として迎えられたきっかけだったのでしょうか。
そして1974年(昭和49年)沖縄に戻り 第二次世界大戦で壊滅状態であった沖縄の染織を紅型染の城間栄喜氏や芭蕉布の平良敏子氏らとともに復興に尽力された「大城志津子」さんの元で沖縄の織物技法を学ばれました。
1974年(昭和54年)まゆ織工房を設立し独立 その際にはお父様や公庫に頼み込み借金をし独立されましたが返済に困り大変苦労されたという事です。それでも織物の世界で生きていきたいという強い信念が実り作品が認められ、個展やグループ展を数多く行い 着尺や帯だけでなく「あけずば織」のショールの制作など和洋の世界で広くご活躍されています。
糸をこよなく愛し妥協を許さない強い信念をもって作品作りに取り組まれている染織作家 上原美智子さん。
国産の春繭を上州座繰機で手引きされた絹糸が底光りする美しさ。シャリっとした手触りとコシのある風合いが生み出す味わい深さ。そして草木染の渋い色彩。 それぞれが絶妙に融合しロートン織のお洒落さをより一層際立たせています。まさに唯一無二の存在感を漂わせる九寸名古屋帯に仕上がっています。
本品は生絹のシャリ感のある薄手の織物ですが、透け感は抑えられていますので、単衣から夏にかけて、また袷の季節までオールシーズンお使いいただけます。
一目で分かる手織りの一級品です。お目に留まりましたら是非お手元にお迎えください。
スポットガーデン 筑摩和之