静かに佇む工芸美 生絹(すずし)の素朴な風合いに映る清涼感漂う草木染の揺らぎ。伸びやかな絣足のラインに胸がすくような清々しさを覚え、凛とした気分に誘ぎます。民藝の父 柳宗悦の系譜を汲む染織作家 山下健氏の感性が光る逸品が夏の装いを静かに彩ります。
黒の横段と生成りの地色との境目の染まった部分の不揃いな長短を絣足(かすりあし)と呼びます。ランダムに伸びる絣足が工芸味を感じさせ味わい深さと風格を漂わせるのです。
草木染の揺らぎ
草木染料で染色された糸が放つ色の美しさは何とも言えない趣きとともに目に優しく映ります。この曖昧な表現でしか現わすことが出来ないのが草木染であり、色の奥に目で識別が出来ない別の色が重なっているとでも言いましょうか。曖昧な揺らぎといったものが草木染の魅力ではないでしょうか。
黒は矢車 紫の縞はヤマモモと化学染料 茶色の縞はヤマモモで染められています。
生絹(すずし)の清涼感と味わい
お蚕さんが吐き出した絹の繊維はセリシンと呼ばれるタンパク質で覆われています。その物質は硬くお蚕さんを紫外線から守ります。その蚕から繊維を引き出し数本を引き揃えて一本の糸に製糸されるのですが、その後このセリシンで覆われた糸を精錬と呼ばれる工程により取り除き白く輝く糸に仕上げられるのが一般的です。
しかし 敢えてこのセリシンを落とさずにシャリっとした張りのある糸のままの状態を生絹(すずし/なまぎぬ)と呼び その糸で製織する事で肌触りに独特のざらつきが出て清涼感が生まれるとともに 渋く光る奥深い光沢を放つ織物に仕上がります。工芸味あふれる風合いと渋味が紬のお着物にマッチし自然と調和した着姿を演出してくれるのです。
しなやかな手織りの風合い
”トン ♪トントン♪” ”トン ♪トントン♪”
布の声に耳を傾けながら絹をいたわるように、それでいてしっかりと緯糸を打ち込む手織りの作業は集中力と根気、そして卓越した技術が求められます。弱すぎず強すぎず そして全体を通じて均質に仕上げなければなりません。機械織は均質で速く製織することが可能ですが手織りと比べるとどうしても硬さが残ります。一方 手織りで製織された織物は しなやかさの中にも安心感のある強さというものが感じられ着心地の良さに繋がるのです。
柳宗悦より伝播された民藝の美
この絹布を語るうえで、柳家の歴史と信念を知らねばなりません。
本品の製作者 山下健さんの染織の美にたいする根幹をたどると、民芸運動の父とうたわれる”柳宗悦氏(やなぎ むねよし)”に行きつきます。
明治の頃に志賀直哉、武者小路実篤らとともに雑誌「白樺」を創刊し、ロダンやゴッホといった西欧美術を世に紹介したのが同氏の民芸運動活動の始まりです。
そもそも「民芸」とはいったい何なのでしょうか。
それは、庶民の生活から生まれた日常品の中にこそ美しさがあるという発想から生まれました。伝統的な手仕事の素晴らしさを悟った宗悦氏は、民衆の伝統技術を調査するために全国を巡る中で「民衆的工芸」の略語として「民芸」という言葉を作り運動としました。
宗悦氏は、沖縄をはじめ全国各地の工芸品を調査する他、「行状のすぐれた念仏者」の研究にも力を注ぎ、浄土思想として仏教と結びつけて「民芸美術」の基盤としました。
「無名の職人が作ったものが何故美しいのか」それは「信と美」の深い結びつきにあるとし、その考えは仏教美術へと深まりました。
そしてその宗悦氏の思想を染織の分野で担ったのが同氏の甥である柳悦孝・悦博兄弟であり、その二人の工房で山下氏は織物を学んだのです。
柳悦博氏はほとんど独学で染織を学び、彼に学んだ染織作家の多くは国画会や民藝館展などで活躍されています。
全国を廻り自分の目で工芸の仕事場を見たり、一枚の裂から技術を習得していった悦博氏の感性は、何物にもとらわれない自由な発想を生み出す能力を培い、弟子に対しても多くを教える事なく彼らの感性に任せて育てていかれたようです。
糸作りや色の配合の技術的なことは教えられても感性はその人それぞれが独自に持っているものであり、それは教えられるものではなく独自で生み出す自由な発想の中から自然に生まれてくるという考え方なのでしょうか。
技法や技術といった精巧な理論と生まれ持ったセンスともいえる感受性とが融合して初めて人の心を動かす作品が生み出されるのかもしれません。
山下健(やました たけし)
1955年 鳥取県青谷町 生
1973年から約3年間 柳工房にて織物を学ぶ
※柳悦博工房にて(3年間) 柳悦孝工房(4ヶ月)
※地元の会社で和布の商品開発の為、織物を学ぶ必要があった為。
1976年 国展出品 50周年記念賞受賞
同年 鳥取に帰郷
1977年 勤めていた会社を退社 独立し織物に専念
1995年 国画会 友会推挙
1999年 国画会 友会優秀賞受賞
2001年 国画会 会員推挙
民藝の美を継承しながら独自の世界観を織りに託す 染織作家 山下健が生み出す至高の逸品名古屋帯。全国の着物愛好家やお洒落着物専門店から絶大なる人気と支持を得る作品です。
夏の装いを少し贅沢に彩ってみてはいかがでしょうか。
誤魔化しの効かないシンプルな夏の装いだからこそ、より上質なお品をお召しください。
スポットガーデン 筑摩和之
お仕立てをご依頼の際、お太鼓を「生成りベース」もしくは「黒ベース」のどちらで仕立てるかをオプション選択からご指定下さい。
※写真と実物とはモニターや画像処理の関係上、若干色目が異なって見える場合がございますので予めご理解ください。
【お仕立てについて】
お仕立て期間:名古屋帯仕立て(約3週間) 開き(松葉)仕立て(約4週間)
年末年始、GWなど長期休みを挟む場合は7~10日ほど余分に日数が掛かります。
※国内手縫い仕立てです。
※本品は夏用の帯芯を使用させていただきます。
【九寸名古屋帯】
1「名古屋帯仕立て」5,400円
手先からお太鼓までを半分に折って芯を入れて仕立てる
※最も一般的なお仕立て方法です。
2「開き仕立て(裏地無し)」9,720円
手先を半分に折らずに全て平らにして芯を入れて仕立て、手先から胴巻きの部分に裏地をつけない
3「開き仕立て(裏地付き)」12,420円
2の開き仕立てで裏地(モス)をつける仕立て
※裏地の色はお任せになります。
※夏用の素材ではございません。
(帯ガード加工)
・雨やお食事時にも安心のガード加工:3,240円